時は「住工混在解消」が叫ばれはじめた1980年代に遡ります。住宅地の中に工場を構えていた企業は振動公害等の理由から住宅地を追われますが、ハリマ産業も移転を余儀なくされた企業の１社でした。工場の移転先を検討した結果として、松戸で同じような境遇にある企業５社が集まって協同組合を結成し、国の特殊法人公害防止事業団から稔台工業団地（68社規模）南側の一角の譲渡を受けて小規模工業団地を造ることになりました。
各社はこれから建設する社屋・工場について「ユニークで意義のあるものにしたい」と検討した結果、なんと数年後に開催される科学万博（つくば万博）の外国パビリオン（インドネシア館、大韓民国館）の建物を復元することになりました。同協同組合の理事長であった大久保敏行（ハリマ産業創業者）がパビリオンを建設する日本軽金属に掛け合い、大韓民国・インドネシア両国のパビリオンの払い下げを受けることに成功したのです。実はこのとき、大久保敏行の弟である大久保善弘が日本軽金属で要職に就いており、偶然にも兄弟でこの事業に挑むことになりました。因みに、このパビリオンに目を付けた理由は、外壁素材である「赤泥(せきでい)レンガ」の耐久性と、パビリオン自体のデザインの奇抜さでした。「赤泥レンガ」とは、日本軽金属が当時新開発した外壁材です。
アルミを製錬する際に発生する赤泥(せきでい)を焼くことによってレンガ（建材）にしたものです。
思い通りにならないこともありました。協同組合５社のうち２社は地域から移転を強く迫られ、万博終了まで待つことができませんでした。パビリオンの外壁は万博終了まで手に入らないことから、しかたなく外壁の形状・色調をパビリオンのそれに合わせて造ることにしました。その後、万博は無事終了。いよい本番である「パビリオンの松戸復元計画」がスタート！…しようかというところで思わぬ横やりが入りました。ご記憶にある方もいらっしゃると思いますが、「ミスター合理化」と呼ばれた当時の経団連会長、土光敏夫氏によってこの計画は白紙となりました。再利用コストが無駄であるということで、両パビリオンの取り壊しが決定したのです。現場の落胆ぶりは相当のものだったと思われます。
では、その後のハリマ産業の本社工場建設はどうなったのでしょうか？さらにハリマ史の続きを書かせて頂きたいと思います。
ミスター合理化の一声で破談となったパビリオンの松戸復元計画ですが、日本軽金属の計らいと大久保兄弟の意地で、ハリマ産業の新工場の外壁を「赤泥レンガ」で造ることを実現しました。復元計画がなくなったことから他の４社はそれぞれに工場を建設し、赤泥レンガを使ったのはハリマ産業だけでしたが、今となっては当時の思い出を遺す大切な社屋となっています。30年以上経ってもレンガのずっしりとした重みのある工場を見る度に先人の思いを感じます。
時は流れ、本社工場完成から19年後の平成17年。ハリマ産業は天皇陛下行幸の栄誉を賜りました。その記念碑をつくる際、当時パビリオンの復元計画で奮闘した大久保善弘の長男が父親の背中を追って日本軽金属株式会社に入社しておりましたので、記念碑のアルミ銘板は彼にお願いしました。ハリマ産業にとって松戸新田の本社工場は数度の引っ越しを経て辿り着いた安住の地というより、何か運命的なものに導かれてきたような土地のようです。
首都東京と隣接した千葉県松戸市というこの恵まれた土地で、今後もお客様の期待に応えて参りたいと思います。
